手塚治虫へのオマージュ・ソング。歌詞カードには「-Tribute To King "O.T."-」の記述がある。このアルバムのレコーディング作業の最中に手塚の訃報に接し、タイム・リミット直前に曲の構想を思いつき、リミット10日前に急遽レコーディングを始め、完成に漕ぎ着けた。本人曰く「突貫工事もいいとこ」。曲の概要について「この曲はメロディーとか曲の構成は、あまり重要じゃないんだ。ポイントはあくまでリズム・パターンと歌詞だから」と話している。後にシングル・カットされ、キリンゴールデンビターのCMソングやフジテレビ「サタ★スマ」のテーマ曲として使われた。曲のイントロは『山下達郎のサンデー・ソングブック』のオープニングで使用されている。「手塚治虫2009」テーマソングにも採用された。なお、歌詞の中では「百万馬力」とあるが、公式設定で10万馬力である[注釈 3]。ベスト・アルバム『TREASURES』[注釈 4]とオールタイム・ベスト『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』[注釈 5]に収録された。
この曲について「元々はロックン・ロールを作ろうと思ってたんだ。けれど、ただのロックン・ロールじゃつまらないから、間奏やエンディングのコード進行をちょっとひねったら、耽美的なニュアンスが生まれて、それが詞のイメージを喚起させた。元々曲は『僕の中の少年』の時に生演奏で1回レコーディングしたんだけど、狙った感じが、なかなかイメージ通りに行かなくて『ARTISAN』まで持ち越して同期でやることにしたの。音楽的にはU2みたいな曲を作りたかったんだ。どこが? って言われるかも知れないけど」と語っている。詞のモチーフについては「青山のCAYにドラマティックスを観に行った時、ワンレンで黒のボディコン…時代だな…の女の子が、通路にうずくまって泣いてたんだよね。その姿が目に焼き付いて、男女の心のすれ違いを、カフェバー…これも死語だね…のようなお店を舞台にして表現しようと思いついた。その店にはターナーの絵が飾ってある設定にして、ターナーの『雨、蒸気、速力』の抽象的な世界と男女の倦怠というムードを結び付けようと思った」と振り返っている。のちにエンディングにもヴォーカルが入っているシングル・ヴァージョンとして、リカットされた。日産・スカイラインR32後期型CMソング。この曲も、後に『TREASURES』[注釈 4]と『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』[注釈 5]に収録された。
トレイドウインズ「ニューヨークは淋しい町 (New York's A Lonely Town)」のカヴァー。「デイヴ・エドモンズがこの歌の替え歌『London's A Lonely Town』というカヴァーを発表したから『Tokyo's A Lonely Town』があってもいいんじゃないか、と。で、色々考えて、原曲の“From Central park to Pasadena”を“From Gaien(外苑) park to Pasadena”にしたりしてシチュエーションを東京に置き換えた。昔から英語のカヴァー・ソングに対訳をつけてみたいとも思ってたんで、それも絡めた。要するにこれは一種の洒落なんだ。これも最初は生のドラムスで録音したんだけど、どうしても平坦なオケしかできなかったので、居直って同期でやることにしたんだ」と語っている。
飛遊人–Human–
本作からリリース形態がCDに完全移行したが、アナログ盤に対するこだわりがあり、「本当は15曲入れようと思えば出来たんだけど、僕としては、アルバム全体を50分以内に収めたかった。それとA面とB面という感覚をどうしても残したかったんで、何かクッションになるような曲を入れようと思って、それでこの曲を作ったんだ」という。折しもアルバムのレコーディング中に全日空のヨーロッパ就航CMのCMソングを制作する事になり、CMのために制作した後半部分に、前半の弾き語り部分を足して作り上げた。「言ってみれば、『MELODIES』の<黙想>や『RIDE ON TIME』の<おやすみ>と同じようなもので、完全な小品ですね。こういう小品だったら10曲でも20曲でも作れる。こういう曲は俳句みたいなもので、俳句には俳句の難しさがあるけど、僕はCM作家歴が長いから、30秒でメロディーをまとめるというようなことは得意でね。かなり訓練してきたから」と語っているが、この当時、同時発売された本作のカセットテープでは、そうした意図が活かされず、A面にアルバム全体を収録、B面は同内容のリピートとなっている。
曲制作に関して「これも音源モジュールをいじっているうちに出来た曲。専門的な話になっちゃうけど、シンセ音源のベースのチューニングを思いっきり短くして、そのベース音をパーカッションの代わりに使ってみると、面白い効果が出たんだよ」と語っている。コード進行が変わっていて「モード的」な曲調になり、気に入っているという。「HEY REPORTER!」(『FOR YOU』収録曲)や「俺の空」(『Ray Of Hope』収録曲)に見られるシニカルな題材の作品で、ボーカル・エフェクターとしてハーモナイザーが使用されている。
1990年 (1990)のTBSテレビドラマ『誘惑』主題歌。原作は連城三紀彦の『飾り火』。曲制作にあたって、上下巻の原作本を読み込んでから臨んだという。「とっても暗い話でね。面白かったんだけど、とにかく暗いんだ。だからマイナー・メロディーになったんだけど、こういう“ザ”の付くようなマイナー・メロディーを書いたのは初めてだった。僕はいわゆる短調の曲が嫌いでね。Am-Dm-E7なんてのが許せなくて、ほとんど書いた事が無かった」という。「これは作家としての山下達郎の中から出てきた曲だから、いざ自分で歌う段になると、自分の声がオケからえらく浮いちゃってね。しょうがないんで、マイクを下の方にセッティングして、うつむいて歌ったんだよね。そしたら声がくぐもって、オケに合ったという。歌をオケに合わせるなんてのは前代未聞で珍しい事だった」と語っている。この曲も、後に『TREASURES』[注釈 4]と『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』[注釈 5]に収録された。